トロントの家は洗濯機がない。
築50年以上の古い家が多く、シェアハウスに住むとコインランドリーに通うことになる。
そのコインランドリーも最新式ではなく、一昔前のものが多い。
チャイナタウンの近くに住んでいたころ、いつも通っていたコインランドリーがあった。
店にはカウンターがあり、中国人のオーナーがいつも暇そうに本を読んでいた。
トロントのコインランドリー
トロントに来たばかりのころ、宿泊先のホステルに洗濯機がなく、ダウンタウンにあるコインランドリーを利用したことがある。
3月なのに冷たい風が吹きつける中、凍えるような思いで歩いて行ったのを覚えている。
その店はクイーンストリートウエスト沿いにあり、古めかしい店内には腰の曲がったおばあちゃんがいた。
おそらく中国人だろう。
一人で黙々と大量の衣類を洗濯機に詰めこみ、おわったらカートにのせ、乾燥機に放りこむ。
はじめはお客さんかなと思っていたが、ものすごい量に業務だと気づいた。
洗濯機の使い方がわからなくて戸惑っていると、そのおばあちゃんがぶっきらぼうに教えてくれた。
かなりくだけた英語でよく聞きとれなかったが、ジェスチャーでなんとか理解できた。
そのたたずまいには、移民として慣れないト土地で生活する苦労がにじみでていた。
中国人がはじめたランドリー
気になったので調べてみると、中国人が移民としてトロントに来て、初めてのビジネスがランドリーだった。
市の記録によると、1878年サム・チンという男性がダウンタウンで洗濯屋を営んでいた。
その後数十年で中国人経営の洗濯屋は増加し、1902年には100以上もあったという。
もちろん当時は機械などなく、すべて手洗い。
長時間の肉体労働だったが、英語も話せない貧しい移民たちはランドリーの仕事をするしかなかった。
これはトロントに限ったことではなく、北米のほかの都市でも同様で、「チャイニーズランドリーマン」と呼ばれるステレオタイプも生まれた。
しかし、時代は長くは続かなかった。
機械化の流れとともに、中国人によるハンドランドリーの数は激減。
現在トロントでは、ダウンタウンに数軒残るのみとなった。
コインを入れて洗濯する自動ランドリーが主流になった今、ランドリーにいる年老いた中国人を見るとふと思う。
かつてのチャイニーズランドリーマンの孫が、同じ土地でコインランドリーを経営していても不思議ではない。
機械化により重労働から解放され、豊かな暮らしを送っていると。